平成サバイブ 第一二話「出会い1」

平成サバイブ

五月晴さつきばれの朝。ひらめは、ベランダでタバコを吸いながら鼻歌まじりで洗濯機を回していた。

(スロットでも行くか〜)

ひらめは休日にスロット以外にやることがなかった。休日は一人暮らしをはじめた西川口の駅前にあるスロット屋に入り浸っていた。

開店と同時にスロット屋に入り、タバコをくわえながら『大花火』を打ってるが、あまり調子よくない。

「おう、ひらめ。おはとう」
「あ、ユウタさん。おはよう」

「ひらめっち、おはよう」
「ああ、ユカさん、おはよう」

毎週のように通っていると顔見知りも多い。午前中は調子が悪かったが、午後から持ち直し、一三時過ぎにはプラス一万円。

(深追いはしない・・・)

交換所で現金にし、鼻歌混じりに帰路に着く。

気持ちいい気温の中、いつもの道とは違う大通りをゆっくりと歩いく。

普段は気にならないディーラーに並んでいる赤いロードスターに目を奪われた。

リトラクタブルライトを閉じているロードスターは、なめらかで色気のある日本女性のようだ。

(ナンパ車だけあって、カッコいいよな・・・)

フロントガラスに置いてあるプライスボードに目を向ける。

【SALE】おすすめ車両
金額 40万円
年式 平成2年
走行距離 12万キロ
修復歴 なし
車検 なし
エアコン、パワステ、パワーウインドウ

「ご覧になられますか?」

歩道でロードスターを眺めているひらめに制服の女性が声をかけた。

(・・・あせった。お店の人か・・・)

「あ、良いです・・・」

二十代半ば。小柄だけど、りんとした雰囲気をまとった女性が、ひらめに微笑みかける。

「ユーノス・・・可愛いですよね。私も乗ってるんですよ」
「そうなんですか・・・」

(きれいなお姉さんだな・・・)

「NB(新しいロードスター)よりNAの方が可愛いですよね」
「はい・・・」

「Vスペのネオグリーンの落ち着いたカラーも良いんだけど、クラシックレッドの可愛いさは抜群ですよね。NAって可愛いクルマじゃないですか~。なので、クラシックレッドか、Jリミのサンバーストイエローの二択だと思うんですよね。ネオグリーンも人気だったけど、ジェントルマンってイメージなんですよ。まだ落ち着く年齢じゃないっていうか、分かります?」
「・・・そうっすね」

「良かったら、裏に止めてある私のJリミテッド、見ます?」
「はあ・・・」

ひらめは、女性のロードスター愛に圧倒されていた。ディーラーの裏にある従業員用の駐車場に移動しながらも、女性の話は止まらない。

「NAの場合、パワーウィンドウはオプションだったので、あっ、でも、だいたいついてるか・・・。ロードスターって比較的、フル装備で買われた方が多いんですよ。なので基本的にはメーカーオプションは付いている車が多いんです」
「そうなんすか」

「ちなみに、ロードスターに乗るならマフラーと車高調は変えた方が良いですよ」
「はあ」

「(車高を)落とし過ぎると下品になるけど、少し落とした方が一体感が生まれ、オシャレに見えるんですよね。どうです? この子も少し落としているんです。可愛いですよね」
「・・・そうですね」

「ロードスターは車高が低いから、今日みたいな(制服の)スカートだと・・・見えそうになるし、ロングスカートだとドアに挟まりそうだし、女子としては服装に気をつけないといけないから大変なんですよ」

(見せてもらっても構わない。いや、むしろ見たい。見せてください)

「私も最初、クラシックレッドの娘が欲しかったんだけど、Jリミが出たらこっちかなって」

(話の脈絡みゃくりゃくの無さが、女子特有なんだよな・・・かわいい)

「そうっすね。黄色のロードスターも、かわいいっすね」

「ですよね。良かった。もうすぐ車検なんだけど、通すつもりなんですよ。まだまだ乗るつもりなんです。ちなみに、Jリミテッドの特別色は『サンバーストイエロー』って言うんですけど、塗装工程が他の色に比べて、約四倍必要で、コストがあがっちゃうらしいんです」
「へえ、そうなんすね」

「内装も、ナルディ製ウッドステアリングでしょ。それにシフトノブとウッドパーキングレバー。特別な装備になっています」
「ほう」

「他にも、パワステも標準装備だし、パワーウィンドウ、後なんだっけ? つまり、可愛いだけじゃなくて、色々とついてお得だったんですよ」

(お姉さん、いくつなんだろう? 可愛いなあ)

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