平成サバイブ 第一三話「出会い2」

平成サバイブ

「あっコーヒー飲む?」
「大丈夫です」

「うん。あの娘のカギ取ってくるね」

(・・・完全にタメ口になってますよね?)

カギを片手にデーラーの女性のトークが始まる。

「この娘はワンオーナーで、ずっとうち(ディーラー)がメンテナンスしてきたから、状態はバッチリ。ちょっと距離は伸びているけど大丈夫」
「そうなんですか」

「記録簿も揃っているしね。ちなみにユーノスって、マツダの販売チャンネルのひとつだって、知ってた?」
「知ってますよ。あとアンフィニとか、オートザムとかですよね」

「正解。でね、ユーノスって、ダサいマツダのイメージを感じさせないようにするための戦略だったんだって」
「へぇ~」

(マツダの社員がダサいって言って大丈夫なのか?)

「ユーノスは、ロードスター以外に人気車種が出せなかったんだよ。車に詳しくないと『ユーノス』イコール『ロードスター』と言うか、どっちが車の名前なのか分からない人もいるんだって」
「まあ、分からなくもないっすね」

「あっごめん。この娘を見に来たんだよね」
「・・・」

「まだ塗装も綺麗でしょ? 屋根付きの車庫に駐車をしていたらしいから、あまり焼けていない。内装も見る?」

「お願いします」

「ちょっと待って。幌開けるよ」

デーラーの女性は低い運転席にひざをつけ、手慣れた手つきで幌を開けた。

ひらめは、幌の開け方など聞いていなかった。スカートから伸びる女性のおみ足が気になってしょうがない。

見えそうで、見えない。究極のエロリズム。

「ちなみにロードスターは茶室をイメージしているから、ドアノブも他の車とは違うデザインになってるんだよ。指を入れて開けるんだ」
「おぉすげ~」

「ちょっと乗ってみて。ロードスターは、茶室に入るための『にじり口』のイメージで、背を低くして茶室に入る感覚・・・非日常への入り口を演出してるんだ」

ひらめはうながされるまま、狭い運転席に収まる。

「どう?」
「良いっす」

「何が?」

(えっ、なんで怒ってんすか?)

「なんか、せまいんだけど、しっぽり来るっていうか・・・」
「うん。そうなんだよね。ロードスターって、窮屈きゅうくつに感じるけど全てに手が届くというか、運転に必要な操作がしやすいんだよね」

(セーフ。間違ってなかった・・・)

「他に気になるところ、ある?」
「内装はシンプルっていうか余計なモノがない」

「そう、ロードスターの内装はシンプル。シンプルというか安っぽい。それには理由があるんだ。ロードスターは走り以外に出来るだけ、コストをかけないことにチャレンジしたんだって。誰にでも手が届くように、コストダウンをしたんだ。でも簡単じゃなかったそうじゃ。凄く苦労をしたそうな。じゃかな、それが日本のびの精神なんじゃよ」

(なぜに、おばあちゃん?)

「エンジンをかけてみたらどうじゃ?」

キーをひねる。

「ブオオオン、ボボボボ・・・」

「どうじゃ、この娘もマフラーが変えられているんじゃ。この上品な音。ワシのロードスターと同じ柿本改のマフラーなんじゃよ。おすすめじゃ」

官能的なアイドリング音が、シートを通して腹の奥底に響く。

「どうじゃ、寒いし、中でお茶でも飲まんかね?」

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