平成サバイブ 第一五話「出会い4」

平成サバイブ

店長が去った後、ひらめはデーラーの女性店員、飯島と二人で向かい合う。

「どっちも良い車だよ。予算もあるだろうし、よく考えた方が良いと思う」
「そうっすね・・・」

「すぐに決められないよね」

(その前に車を買うかも決めてないんだけどな・・・)

「買うならNAなんすけど、クルマって必要なのかなって」
「そうかあ。NAに決めたか。あの、可愛いもんね」

(ちょっと待て。俺の言い方が悪かったか?)

「私、あの店長、嫌いなんだけど、店長が言っていたのは、間違いじゃないんだよね。間違いなくNBの方が性能が良い。正常進化している。私も乗ったけど、うちのジョージ(NAロードスターJリミテッド)より素直な気がした。でも、最後は愛じゃん? 愛を感じた方に乗った方が後悔しないよ」

「クルマって必要すか?」
「必要だよ。なかったら寂しくて家から出れないよ」

(相談する相手を間違えたな・・・)

「多分だけど、ロードスターに出会わなかったら、私はこんなに車好きになってなかったかもね。ロードスターを見て車が欲しいと思ったし、就職も決めた。免許もロードスターに乗るために取った。そして、乗ったら最高に楽しい。最初は恥ずかしかったよ。黄色で目立つ上にオープンカーだし、周りの視線を凄く感じた。それも女子でしょ? なんて言うか、変わった娘だと思われる。君もそう思ったでしょ?」

(確かに、きれいなお姉さんが黄色のオープンカーを運転してたら男は釘づけだよな)

「今はさ、ハイパワーな車じゃないとスポーツカーじゃないみたいな雰囲気があるでしょ? でもさ、ロードスターは違うんだ。『運転の楽しさ』を求めてFF車全盛期の時代に、あえて古典的な後輪駆動のFR方式を採用しているし『50:50』の理想的な前後重量配分で、ドライバーのステアリング操作が自然に行えるようにしている。車の楽しさってハイパワーでグイグイ引っ張ることじゃないんだよ。そこはNAもNBも一貫している。で、なんだっけ?」

(・・・もう良いか)

「ロードスターってツーシーターじゃないですか? 不便じゃないっすか?」

「う〜ん、不便なのかな? 私の場合、基本的にひとりで移動することがほとんどだし、不便を感じないよね。そもそも、ひとりで大きいクルマに乗ってる方がダサくない? 『大は小を兼ねる』みたいな考えの人って車好きじゃないんだよ。だいたい乱暴な運転をするのって大きいクルマが多いし。ロードスターみたいな小さい車だと結構、乱暴な割り込みとかされるんだよね。私なんか女子じゃん? オープンで走っているとしょっちゅうだよ。マジで」

「そうなんすか?」

「ごめん。永井くんっていくつ?」
「二五っす」

「私とあんま変わんないね。ロードスターって、人生で二度乗るタイミングがあるの。一度目は独身のとき。そして子育てが終わった老後。もちろん、そうじゃない人もいるけど、そんな人は一部のお金持ちだけ」

(・・・話が飛ぶのは女子特有だよね。しかし、かわいい・・・)

「そうなんすか?」
「勝手に私が思っているだけだけどね」

(自信満々に想像の話っすか?)

「少しの勇気を出せば『だれでもしあわせになれる』」
「えっ?」

「ユーノスロードスターのカタログに載っている言葉。ロードスターに乗ると、しあわせな気分になれるんだよ。私も仕事で嫌なことがあっても、ジョージとお出かけすると忘れられる。ただね、ロードスターに乗るには勇気が必要なんだ。私が思うに何もしないと楽しさ、幸せって手に入れることができないんだよね。最初の一歩を踏み出すことができれば、誰でも幸せになれる。ただ、みんな勇気が出せないからロードスターに乗れないんだよ」

「深いっすね」
「そう、勇気を出して。飛び込んでおいでよ。本当に楽しいんだから」

(お姉さんの胸に飛び込みたい・・・)

「NBもいいんだけど、NAを選んでくれて嬉しいよ」
「いや、まだ買うかを決めてないんですよ」

「えっそうなの?」
「・・・」

「ローンを組むなら銀行ローンが良いよ。うち(ディーラー)と契約しているローンは金利が高いから」
「そうなんすか?」

「全然違うよ」
「マジっすか」

「じゃローンの手続きが終わったら教えて。あと車庫証明だね」
「いや、買うか、決めてないんですって」

「勇気を出せよ。青年っ!! 社会人になってクルマがないと彼女もできないぞっ!!」

飯島は満面の笑みで、ひらめに声をかける。ひらめは一瞬考えたけど、飯島の意見に乗ることにした。

(まあ、金はどうにかなるよ・・・きっと)

「そうっすね。NAを嫁にもらいます」

「本当? 良かった!! こう言っちゃなんだけど、あの娘は君に買ってもらいたかった。なんか君に乗ってもらいたそうだった」

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