平成サバイブ 第一七話「納車2」 

平成サバイブ

オープンにした黄色と赤の二台のロードスターが前後に並んで信号に止まる。初夏の日差しと時折吹く心地よい風が気持ち良い。

ひらめは新しい相棒の素直さに驚いていた。

(楽しい・・・)

一七号線を流れに乗って北進している車内で一人ニヤついている。はじめは恥ずかしいと思っていたオープンカーも気にはならない。ただ屋根がないだけなのにワクワクする。非日常がたまらない。

ハイパワーでグイグイと重い車体を引っ張るスポーツカーとは違い、軽くヒラヒラと走るロードスターの走りに魅了みりょうされはじめていた。

信号が変わり、ギアを一速に入れ、クラッチを丁寧に繋ぐ。ゆっくりとロードスターが発進をする。

派手なオープンカーが官能的な排気音を上げる。回転数に合わせ、ギアを上げていく。

少し引っ張り気味に、三速、三〇〇〇回転数で時速六〇キロ。

(十分だよな・・・)

NAロードスターは発売当初から走り屋と呼ばれる車好きには不評だった。同じテンロク(一.六リッターエンジン)のライバル車より非力で回らないエンジンを積んでいるので、見た目だけのスポーツカーと揶揄やゆされていた。

社会人として節度のある運転をする上では非力なファミリアのエンジンだろうが問題はない。

軽いロードスターは、道路の小さな凸凹を拾い、車体がよじれる。これ以上のハイパワーのエンジンでは、どこに飛んで行くか不安になる。

ひらめは、何よりも屋根がないオープンカーの爽快感に酔いしれていた。

オープンカーは誰もが憧れるクルマであるけど、手に入れる人間は少ない。間違いなく、万人受けするクルマではない。だけど、ハマる人間はとことんハマる。

ロードスターは、街乗りでは十分なパワーと素直なハンドリング・・・何よりも走る、止まる、曲がる、安心感がある。約一〇年前のクルマなので、最新のクルマに比べたら、パワーも、安全性能も、快適性も全てにおいておとる。

全てを犠牲にしても楽しめるクルマだ。

(素直なクルマだよな・・・)

オープンにして前を走る真美が手を上げ、左にウィンカーを出した。ひらめも手を上げ応え、二台はコンビニの駐車場に滑り込む。

「ひらめっち、運転上手いじゃん」
「そんなことないですよ」

「マニュアル・・・慣れないでしょ?」
「あ、学生時代のクルマもマニュアル・・・オートマに乗ったことない」

ひらめはタバコの煙を避けるため、目を細めながら真美に視線を向ける。

「何乗ってたの?」
「カリカリにチューニングされたEG6・・・」

「シビックかぁ、あの娘も可愛いよね・・・」
「先輩から安く譲ってもらったんですよ。この娘と同年代・・・」

「え、走り屋さんだったの?」
「違う違う。先輩がいじり倒したクルマを譲ってもらっただけ。そんなクルマしか運転してなかったから、この娘は素直で運転しやすく感じる」

「もしかして、ロードスターをバカにしてたクチ?」
「まあ、そうね・・・走り屋のクルマではない。でも、違った楽しみがある・・・」

「私はジョージ以外乗ったことないんだけど、褒めてもらえると嬉しい」
「・・・」

「どこも問題なさそう?」

「すこぶる快調」
「うん。良かった。よし、行こうか」

「うん」

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陽が沈む頃、二台のロードスターは西川口近くのスーパーの脇に戻ってきた。

「楽しかった。また遊ぼうね。私、土日休みじゃないから、なかなか遊べないけど」
「うん。それまでにETCつけておく」

真美と別れ、ひらめはロードスターを駐車場に停めた。

薄暗い駐車場で、タバコに火をつけ、幌を閉め、一人暮らしの部屋に歩く。

平成不況の中で【車は男のステータス】と言われることもなくなり、車は贅沢品だといわれる時代になった。そんな中、ひらめは中古だけど自分のクルマを手に入れた。

真美が言うように「車がないと彼女ができない」なんてことはないと思う。だけど、車がないと出来ない経験があるのも事実だ。

社会人になり、灰色に見えていた景色に色がついた気がした。

人からは何を言われようが「自分らしく生きたい」変わり者だと言われようが、さげすまれようが、自分の好きなように生きる。ひらめは、それが自分の生き方であることを再認識した。

(勢いで買ったのは良いけど、ローンの支払い・・・どうしようかな・・・)

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