平成サバイブ 第九話「仕事観」

平成サバイブ

定時退勤日。新人は残業するほどの仕事などあるはずもない。ひらめは定時に帰るため、会社から与えられたパソコンのメールをチェックしていた。

「ガガガッ、ガガガッ」

デスクの上で充電しているひらめの社内ピッチに着信がある。ひらめは右手につけている時計に目をやった。

(定時まで残り三分・・・。出るか〜)

表示されている内線番号は登録されていない。ひらめは席を立ちながら電話に出た。電話の主は真央。

「どうした?」
「ケータイの番号知らないから」

「うん。教えてなかったね」
「飲みに行こう」

「うん。いいよ」

お互いのケータイの番号を交換し、新宿で落ち合うことにした。

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ひらめと真央は、新宿の個室居酒屋に入り、四人掛けのテーブルに向き合って座った。平然を装いってはいるが、ひらめは緊張をしている。

「「お疲れっ!」」
「先週はありがと」

「俺、なんかしたっけ?」
「本音で話してくれるって約束してくれたでしょ?」

「・・・」

「ひらめくんは、私に隠していることはないよね?」
「そんな訳ないじゃん。隠しているものだらけだよ・・・」

「そりゃそうか・・・。じゃまずは、この前の質問に答えてよ。夢は何?」

真央は大きな目で、眠そうなひらめの目をじっと見つめる。ひらめはチカラ強い視線に耐えられず、目をそらしてしまった。

「絶対に笑わないでよ・・・。俺の夢は『好きな人間と好きなことを好きなだけする生活』を手に入れること。なんか、言葉にすると陳腐ちんぷなんだけど・・・。お互いのエゴを認め合える人間とだけ生活をしたい・・・」
「この前も言っていたよね」

「うん。でもこれは正直な話・・・小さいときにさ、公園の砂場で真剣に砂の山を作ってトンネルを掘って遊んだりしたでしょ。時間も忘れて。あんな感じで仕事が出来れば幸せだと思ってる」
「うん」

ひらめはそらした視線を真央に向けると、笑うこともなく、バカにしている様子でもなく、真剣に話を聞く真央がいた。

ひらめは真剣な話をするのが苦手だ。相手が真剣に聞こうとすればするほど話したくなくなる。

「世界中の富と名声を手に入れ、可愛いお姉ちゃんと一日中、ダラダラと何も考えずに欲望と感情を丸出しにした生活も憧れるよね。いつも全裸で動物のように食いたい時に食べ、眠くなったら寝る。そしてエッチがしたいときにエッチをするみたいな・・・」

ひらめに優しい視線を送っていた真央の目の色が変わった。まとっているオーラもそれまでとは違い、ひらめはあせる。

「うそ。冗談。分かっていると思うけど・・・」
「うん。この前は誤魔化していたけど、ちゃんと話してくれたね」

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「学生時代は何してたの?」
「女の尻ばかりを追いかけていたよ」

「・・・いや、冗談は良いから」
「割とマジで」

「・・・」

「なんというか、社会をなめてるんだろうね。きっと」
「どういうこと?」

ひらめはビールをひと口飲み、身を乗り出した。

「例えば、みんなが大好きで尽くしたい会社っていう組織があるじゃん」
「その言い方・・・特定の人間に対する悪意を感じるよ・・・」

「あんな弱っちぃ組織はなくて、俺は結構、舐めているんだ。給料をもらいながら、勉強させてもらえるとか、変な話、仕事しなくても会社にいれば給料がもらえる・・・」
「でも働かないとダメじゃん」

「真央さんの基準ではそうなのかも知れないけど、俺はやる気のあるバカほど迷惑だと思っているからあえて仕事をしない。能力がつくまでは、脇役、盛り上げ役の方が良いんだよ」
「絶対嫌われるよ」

「大丈夫だよ。結構『可愛い後輩ちゃん』キャラを確立しているし、俺には強い味方がいっぱいいるんだ」
「強い味方?」

「先輩女子社員だけには好かれるように細心の注意を払っているからね」
「上司じゃなくて?」

「上司なんてどう思われても良いんだよ。女子社員から嫌われなければ、仕事ができなくてもクビにはならんよ」
「どういうこと?」

「上司や先輩が俺を評価をするときに、感情で評価をすることはできなくて、第三者の意見を聞くでしょ? そのときに多くの女子社員から評価が高い人間であれば無下にはできない。いくら気に入らなくてもね。まあ、直属の先輩や上司には『可愛い新人』だと思われるようにしているし、仕事はちゃんとしているから嫌われる要素がないけど、保険だね」

「本当に最低な男だね。計算高いというか、卑怯ひきょうな手ばっかりじゃん・・・」
「ズルいけど弱者の生き方だよ」

「ひらめくんに正義はないのかね?」
「ラクして稼ぐことが正義。ラクして経済的余裕を手に入れることで、時間的余裕も手に入るし、何よりも精神的余裕を手に入れられるじゃん。自分に余裕がないと周りの人に優しくなんかできなくて、世の中を良くするために、まずは僕が有り余る富を手に入れる。まずはそこからだね」

卑怯ひきょうすぎる・・・。そんなこと真央以外に話ちゃダメだよ」
「誰にも話さないよ。こんなこと考えている奴、すげー嫌な奴じゃん?」

「まあ、分かっているなら良いけど・・・。絶対、彼氏にはしたくない・・・」
「そんなことないよ。結構、女子が求めるキャラを演じる自信があるし」

「なんか、それが嫌なんだよ。騙されている感があって・・・」
「あははははっ」

「やっぱり真央の勘は間違っていなかったんだ・・・」
「どういうこと?」

「絶対、ひらめくんとは仲良くなれる気がしたんだ。この人は『ムリしてる』って感じて、真央と一緒だと思った」
「・・・」

ひらめは、男友達にも話さないことでも、真央には話ていいような気がしてきた。

「よし。帰ろうか」
「うん」

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