技術革新は全人類を幸福にするのか。歴史と科学から推測する真実

社会の話

現代の世は、技術の進歩を謳歌おうかし、まるでそれが万人を幸福へと導くかのような幻想に満ちている。しかし、この甘美かんびな言葉の裏には、常に冷酷な真実が潜んでいる。

技術は、その恩恵を享受きょうじゅできる者と、そうでない者との間に、底なしの溝を掘り続ける。人がになると言うのは、所詮、一面的な欺瞞ぎまんに過ぎないのだ。このことを歴史と科学の視点から、詳らかにする。

かつて、日本の維新期、あるいは明治という時代を迎えるにあたり、西洋からおびただしい技術が流入した。蒸気機関、鉄道、電信・・・。これらは、日本の近代化を推し進め、に莫大な富と権力をもたらした。しかし、その陰で、職を失った者、新しい技術についていけず、社会の底辺へと沈んでいった者がどれほどいたかを想像してほしい。

たとえば、鉄道の敷設ふせつは、それまで馬や人力で荷物を運んでいた多くの人々の生業なりわいを奪った。彼らは、新しい技術に適応する機会も、能力も与えられなかった。技術は、彼らを《「ラク》》にするどころか、生活の基盤を根こそぎ奪う災厄さいやくだったのだ。

これは現代の「情報格差」にも通じる。情報化社会の進展は、かつてないほどの便利さをもたらした。スマートフォンひとつで、世界中の情報にアクセスできる。しかし、この恩恵は、情報機器を使いこなし、そこから価値を引き出す能力を持つ人々に限定される。

高齢者や、経済的な理由からデジタル機器を持てない人々、情報化社会についていけないと自らドロップアウトした人々は、この情報の波から取り残されていく。行政手続きのオンライン化、キャッシュレス決済の普及は、彼らにとって新たな障壁となる。技術は、彼らが享受きょうじゅするべきサービスを、かえって遠ざける結果を招いている。

このという概念そのものにも、科学的な欺瞞ぎまんが潜んでいる。人間は、新しい技術を手に入れると、その便利さによって一時的にラクになったと感じる。しかし、それは束の間の錯覚に過ぎない。

進化心理学の観点から見れば、人間の脳は、常に新しい課題を探し、解決しようとするようにできている。技術が一つ問題を解決すれば、人間はすぐに次の、より複雑な問題を作り出す。

たとえば、洗濯機の発明は、手洗いという重労働から人間を解放した。しかし、それによって生まれた時間は、別の、より高度な知的労働や、消費活動に費やされるようになった。

つまり、洗濯がラクになった代わりに、別の形の「忙しさ」が生まれたのだ。これは、人間の脳が、常に最適化と効率化を求めるという性質に起因する。

また、神経科学の分野では、ドーパミンという神経伝達物質が、快楽や報酬と深く関わっていることが分かっている。新しい技術は、このドーパミンを刺激し、一時的な幸福感をもたらす。しかし、それは習慣化され、やがてその効果は薄れていく。

すると、人間はより刺激的な、新しい技術を求めるようになる。これは、中毒と同じメカニズムだ。技術は、人間を真にラクにするのではなく、絶え間ない「より良く」という欲望のスパイラルに巻き込む。

歴史は、この悲劇的な循環を何度も繰り返してきた。産業革命の時代、機械化は生産性を飛躍的に向上させたが、同時に労働者を過酷な環境へと追い込んだ。機械を動かす人間は、まるで機械の一部のように扱われ、個人の尊厳は軽んじられた。

現代のAIやロボット技術も、同じてつを踏もうとしている。単純作業はロボットに任せられるようになり、人間はより創造的な仕事へとシフトすると言われる。しかし、その「創造的な仕事」に就けるのは、ごく一部のエリート層に限られる。多くの人々は、ロボットにも劣る「単純労働者」として、社会の片隅に追いやられていく。

結局のところ「技術の進歩で人間はラクになる」という言葉は、誰にとってのラクなのか、という問いを意図的に無視している。

それは、技術を開発し、所有し、そこから利益を得る者にとってのだからだ。彼らは、自らの成功を、人類全体の進歩であるかのように喧伝けんでんする。

しかし、その成功の陰で、多くの人々が、技術の波に乗り遅れ、苦境に立たされている。彼らは、スマートフォンを持たないことで、社会から隔絶され、AIに職を奪われることで、生活の糧を失う。

結論として、技術は、社会の不均衡を増幅させる増幅器であり、決して万人を救う魔法の杖ではない。それは、一部の人間を頂点へと押し上げる一方で、大多数を谷底へと突き落とす冷酷な力なのだ。

技術とは、一部の人間だけが見ることのできる夢に過ぎない。その雲の下には、未だ多くの人々が、重荷を背負い、苦闘している。

この歴史的、科学的な事実を直視しない限り、我々は、技術の進歩がもたらすという欺瞞に永遠に囚われ続けるだろう。

そして、その果てには、技術の格差が、社会そのものを分断し、不可逆的な崩壊へと導く未来が待っているに違いない。

(了)

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