ユーノス・ロードスターを巡り、父子バトルが勃発

我が息子が『普通自動車免許』を取得したことで、父子でのバトルが勃発（ぼっぱつ）している。

少し、プライベートな悩みではあるが、あなたにも、同じような衝突の危機が訪れるかもしれません。なので、ちょっと付き合って欲しい。

我が家には、家族用のハスラーと僕のロードスターがあります。家族用、僕用と利便的に呼んではいますが、これまでは、運転するのは十中八九、僕だけでした。簡単に言うと、どちらも僕が手に入れたいと思った車･･･趣味で選んだ車なのです。もちろん、ハスラーは、家族の車なので、誰が運転をしても構わないと思っているし、息子が免許を運転したら、任意保険も年齢特約も解除するつもりでした。なのに、どうも息子は、免許を取ったら、僕のロードスターに乗るつもりだったらしい･･･。

そもそも、僕のロードスターは、1991年製のNAロードスター（初代、ユーノス）であり、現代の車のような快適装備も、安全装備も搭載されていない車だし、真っ赤なオープンカーという運転している人間の品位を疑われるような見た目をしているし、何よりも、経年劣化が進み、いつ不調に見舞われ、自走できなくなるか･･･そんな不安を抱えながら、車を労（いたわ）り、のんびりと走らなければならない車です。血気盛（けっきさか）んな若者が乗る車ではありません。ないはずです。ロートルが、余生を楽しむための車･･･少なくとも、僕はそう思っていました。

なのに･･･

嬉しくないわけではなくて、嬉しいんだけど･･･うん、嬉しい。僕のロードスターに乗りたいと思ってくれるのは、嬉しいんだけど、僕が愛してやまないロードスターを息子に譲るとなると話が違います。

僕のプランでは、息子の免許取得した場合、ハスラーと共に、僕がこれまで20等級まで育てた自動車保険（任意保険）の名義を息子に譲り、税金と保険料は息子に払わせる予定でした。息子も安く車が手に入るし、僕の負担（任意保険）も減るし、win-winのプランだと思っていたのです。

よくよく考えてみれば、ステップワゴンからハスラーに乗り換えたのも、税金などの維持費を抑える目的もありましたが、免許を取り立ての息子でも「運転がしやすい車が良いだろう」との配慮からの乗り換えでした。

それに比べ、ロードスターは、パワーはないけど、反応の早いアクセルのレスポンス、軽量なボディの最大の恩恵であるクイックなハンドル、「人馬一体」を具体化したライトウェイトスポーツカーの真骨頂である走りと、見ているだけで笑顔になる美しいデザイン、マニュアルミッション車の運転する楽しさ、そして、誰もが憧れるオープンカーという甘美な乗り物です。そんな車に乗ると苦労が増えます。

僕と同じ轍（てつ）は踏んで欲しくはない。

オープンカー乗りは、間違いなく苦労します。特にロードスターのように2シーター（二人乗り）で、唯一無二のデザインの車に惚れたら、絶対に苦労します。ロードスターは、使い勝手や実用性なんて皆無なんです。運転を楽しむことに全振りしているので、荷物を運ぶ、人を乗せるなど快適性を求めてはいけないのです。必ず、車に実用性を求めるときが来る･･･その時の虚無感（きょむかん）と言ったら、言葉に表せない程です。

そんな親として･･･人生の先輩としての想いを踏みにじり、「スポーツカーっぽくてカッコいい」とか、「リトラクルヘッドライトがおしゃれ」とか、「ファニーな見た目が素敵」などと浮ついた気持ちで、ロードスターに手を出そうとする息子とバトルになるのは必須です。

よく考えてください。いつも綺麗にし、ピカピカ状態を保っていても、中身は30年以上も前に製造された車です。部品の経年劣化は避けては通れません。パワーウィンドウのスピードが落ち、いつ窓の開閉ができなくなるかも心配だし、機嫌が悪い時は、3速に入らないギアや、壊れたエアコン、雨漏りする幌、DIYで穴を塞いだマフラーなどなど、見た目とは裏腹に修理が必要な不具合が、潜在しています。困ったことに、それが紛れもない事実です。

そんな手間が掛かるロードスターを楽しめるのか。莫大な手間と費用を掛けられるのか。僕と同じだけの愛情を注げるのか･･･甚（はなは）だ疑問です。

また、多くの人が車に求めるパワーも、快適性も、安全性もなく、味わえるのは、誰もが乗ったことのないオープンカーを所有しているという優越感と人生を楽しんでいる人間として見られることの爽快感だけです。

確かに、ユーノス・ロードスターは、運転手を育てる車です。シンプルで運転に集中できるコクピット、手足、背中･･･全身で感じる車の挙動、低パワーだけど、十分に楽しめる加速感などなど、運転技術の習得には、最適な車だと思います。加えて、ユーノス・ロードスターは大人としての、余裕の見せ方、他人から求められるキャラの演じ方などなど、人生で大切なことを教えてくれます。

ですが、その分、抱える苦労も多い。他の車に乗っていれば、経験することのない苦労をロードスターは与えてくるのです。本人が理解をしているのであれば、問題ない･･･むしろ、分かっているのであれば、親として喜ぶべきことです。だって、ロードスターは、人間として一回りも二回りも大きく育ててくれる車なんだから･･･。

ここまでの話をまとめると･･･親として、本来はユーノス・ロードスターを勧めるのが、正解のような気がします。ですが、何よりも、息子が狙っているのが、僕のロードスターであり、僕の楽しみを奪おうとしていることに憤（いきどお）りを感じているのです。

息子を成人したひとりの人間として、リスペクトしているからこそ、ロードスターは譲れない･･･譲りたくないと思ってしまいます。

我が家の父子バトルは、しばらく続きそうです。