かつて「安価で手軽に楽しめるスポーツカー」として人気を博したユーノスロードスター(NA型)。
僕が初めて手に入れた2000年当時は、わずか55万円で人馬一体の歓びを味わえたと記憶している。

そうなんだね・・・
しかし、2025年現在、中古市場の相場は平均195万円を超え、かつての価格はもはや夢物語となっている。
なぜここまで、NAロードスターの中古価格が高騰したのか。

簡単には手に入れられない・・・
その背景には、アメリカの「25年ルール」による輸出ラッシュや、JDMブーム、さらに日本独自の重課税制度など、複数の要因が絡んでいる。本記事では、僕自身の体験談を交えながら、この名車が再評価され続ける理由を探っていく。
風と一体になる歓び、その価格は55万円だった

それは、今から十数年も前の話だ。2000年代初頭、僕が初めて手に入れた愛車は、丸みを帯びたポップアップライトが愛らしいユーノス・ロードスター(NA型)だった。
乗り出しで55万円。たったの55万円で、僕は「人馬一体」という言葉の意味を知った。幌を開ければ、街の匂いも、風の音も、太陽の光も、すべてが僕の五感を刺激した。タイトなステアリングを握り、軽やかにコーナーを駆け抜けるたびに、僕は車と会話しているような感覚に陥った。それは単なる移動手段ではない、かけがえのない相棒だった。

良き思い出・・・
しかし、僕は2007年にその相棒を手放した。理由は、仕事と家庭の都合。それから20年近くの時を経て、再びあの風を感じたくなった。コロナ禍で社会全体が閉塞感に包まれる中、ふと、あのロードスターとのドライブが頭をよぎったのだ。
「予算は50万円あれば余裕だろう」
そう思い、中古車サイトを開いた僕は、現実の厳しさに愕然とした。2020年の秋、あの頃の相場はもはや過去のものとなっていた。

高くなっていた・・・
サイトに並ぶNAロードスターは、軒並み100万円を超えている。「ボロい車がなんで?」と訝しがる友人の言葉が耳に痛い。しかし、僕は知っていた。この車の持つ底知れぬ魅力を。
そして2021年3月、僕はついに決心した。車体価格ギリギリ100万円以下、消耗品の交換と点検をお願いして、乗り出しで121万円。

えっ?!高い・・・
かつての倍以上の金額だったが、後悔はなかった。いや、むしろ「このタイミングで買わなければ、一生手に入らないかもしれない」という焦りすら感じていた。
その直感は間違っていなかった。僕が購入してわずか1年で、NAロードスターの平均価格はさらに2割も上昇した。2025年9月時点では、なんと平均195.6万円。最高額は249万円にまで跳ね上がっているという。

値上がりが止まらない・・・
一体なぜ、これほどまでにNAロードスターは高騰しているのか?僕が体験した値上がりを読み解くと、そこには単なる市場原理では片付けられない、複雑な背景が浮かび上がってくる。
NAロードスターが消える日? アメリカの「25年ルール」が招いた悲劇

NAロードスター高騰の最大の要因は、海外への流出だ。特に、海の向こうアメリカがこの現象の主犯格と言える。

どう言うこと?
アメリカでは、通常、日本の右ハンドル車は輸入が認められていない。しかし、通称「25年ルール」と呼ばれるクラシックカー登録制度が存在する。
これは、製造から25年以上が経過した車は、クラシックカーとして扱われ、右ハンドル車でも輸入が許可されるというものだ。さらに、この制度の恐ろしい点は、関税や排ガス規制までも対象外になること。日本の古い車にとっては、まさに「フリーパス」のようなものだ。

日本にも導入して欲しい・・・
そして今、アメリカでは「JDM(Japanese Domestic Market)」ブームが巻き起こっている。日本の漫画やアニメ、ゲームで育った世代が大人になり、劇中に登場するAE86やR32スカイラインといった日本車が、憧れの存在となっているのだ。
NAロードスターもその例外ではない。手軽で、シンプルで、故障も比較的少ない。何より、あの愛嬌のあるルックスと、運転する楽しさが、アメリカの若者たちの心を掴んでいる。
彼らは、日本国内の相場をはるかに上回る金額で、状態の良いNAロードスターを買い漁っている。日本の個人売買サイトやオークションで、NAロードスターがアメリカのバイヤーに落札されることは日常茶飯事だ。

輸出されてるのね・・・
この「25年ルール」によって、NAロードスターはまるで砂時計の砂のように、日本からどんどん消えていっている。供給が減れば、需要と供給のバランスが崩れ、価格が上昇するのは市場の摂理だ。
AE86やR32スカイラインも、このルールによって価格が暴騰し、今や手の届かない存在になってしまった。NAロードスターも、その悲劇を繰り返している。
さらに、日本国内の自動車税もこの現象に拍車をかけている。「重課税制度」という謎のルールにより、初年度登録から13年(ディーゼル車は11年)を超えた車は、自動車税が15%ほど割増される。古い車を大切に乗り続けるオーナーにとっては、まさに「罰金」のようなものだ。

困った制度だ・・・
しかし、それでもNAロードスターを手放さないオーナーたちは多い。高い税金を払ってでも乗り続けたいと思わせるだけの魅力が、この車にはある。
彼らが手放さなければ、中古車市場に供給が増えることはない。つまり、今後もNAロードスターが安くなることはないだろう。
なぜ今、NAロードスターはこんなに愛されるのか?

海外への流出だけが、NAロードスターが高騰している理由ではない。実は、日本国内でもこの車を求める人々が爆発的に増えている。

そうなの?
コロナ禍で、私たちは多くの制約を強いられた。旅行も行けず、気軽に人と会うこともできない。そんな閉塞感の中で、一人でも楽しめる趣味としてドライブが再評価された。そして、「どうせ一人でドライブするなら」と、ファミリーカーではなく、スポーツカーを選ぶ人が増えたのだ。

僕もその一人・・・
特に、僕と同じように40〜50代になった元クルマ好きの男性たちが、再び車の世界に戻ってきた。若い頃にはお金がなくて乗れなかったスポーツカー。家庭を持って、大金は趣味に使いづらくなった今、高性能でハイパワーな最新スポーツカーには手が届かない。
そんな彼らがたどり着いたのが、NAロードスターだ。

「安価で手軽なスポーツカー」というイメージはもはや過去のものだが、それでも最新モデルに比べれば、まだ手が届く範囲にある。そして、実際に乗ってみると、驚くほど満足度が高い。

他の車よりは・・・
パワフルではないが、必要十分なパワーがある。タイトなワインディングロードでは、むしろその軽さが武器になる。街中を流すだけでも、牧歌的な気分になれる。何より、その妖艶で欲情をそそるデザインは、他のどんな車にも真似できない。

唯一無二のデザイン・・・
派手なエアロパーツや巨大なリアウィングがなくても、NAロードスターは見る者を惹きつける。それは、牧歌的で、どこか懐かしい、普遍的な美しさがあるからだ。この車は、機能面では現代の車に劣るかもしれないが、感覚的・経験的な価値においては、圧倒的な存在感を放っている。
「高速でぶっ飛ばしたいわけじゃない。ただ、風を感じて、車の挙動を楽しみながら、のんびりと走りたいんだ」

そうだね・・・
NAロードスターを求める人々の声は、皆、同じような想いに満ちている。この車は、人生を駆け抜けるスピードを競うためのものではなく、人生を慈しむように、ゆっくりと味わうための車なのだ。
最後のチャンス、その扉はもうすぐ閉まる

NAロードスターの値上がりは、単なる中古車市場の異常な高騰ではない。それは、この車が持つ唯一無二の価値が、時代を超えて再評価されていることの証なのだ。

確かに・・・
国内の市場に出回るNAロードスターは、今後も減り続けるだろう。そして、それに比例して、価格はさらに上昇するかもしれない。
僕は、あの時121万円でNAロードスターを手に入れて本当に良かったと思っている。外出自粛で家でゴロゴロし、YouTubeをダラダラ見て時間を潰していた生活が、一変した。休みの日は朝から幌を開けて、近所の山道をドライブしている。

人生に楽しみが増えた
NAロードスターは、万人受けする車ではない。好き嫌いや向き不向きはあるだろう。しかし、一度その魅力にハマれば、もう後戻りはできない。運転するだけで楽しい。幌を開けて走れば、そこには非日常が広がり、乗っているだけで心がワクワクする。
もし、あなたが「いつかNAロードスターに乗りたい」と考えているなら、今が最後のチャンスかもしれない。ほんの少しの勇気があれば、誰でも幸せになれる車が、ロードスターなのだ。
さあ、日本が誇るライトウェイトスポーツカーを、もう一度、楽しもうではないか。その扉は、もうすぐ閉まってしまうかもしれないのだから。







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